仮説と検証を繰り返し、常にCSのあり方をアップデート

本記事は「成長中SaaSのカスタマーサクセスの中を覗いてみよう」の第7回です。

製造業に特化し、メーカー、商社、購入者が利用できるオンラインプラットフォームを提供する株式会社アペルザ。そこでは企業文化としてCSの重要性が深く根付いています。

サービスの特性から市場が限られるため、顧客と長く信頼関係を築くことが不可欠であるとのこと。常に進化し続けるCSのあり方について、クライアントサクセス部門を統括する山野辺さまにお話を伺いました。

株式会社アペルザ クライアントサクセス部 マネージャー 山野辺史久氏
1990年生まれ。福島県出身。大学院卒業後、2015年にウイングアーク1st株式会社に新卒入社。
様々な業種・業務のBIツール導入プロジェクトのコンサルティング業務に従事。2019年に同社のカスタマサクセス部に異動し、オンボーディングプロセスの仕組み化や、アカウントエグゼクティブチームの立ち上げを担当。株式会社アペルザには2021年に入社。現在はクライアントサクセス部にて各種CS業務の仕組みづくりに従事し、現在はクライアントサクセス部のマネージャーを担当。

当記事は連載「成長中SaaSのカスタマーサクセスをのぞいてみよう」第7弾としてお届けします。

CS Profile@アペルザ

製造業の課題解決のために

― 主なプロダクトについて教えてください。

アペルザは、製造業の抱える課題を解決するためのサービスを提供しています。主なプロダクトは、製造業向けクラウドサービス「アペルザクラウド」、製造業向けカタログポータル「アペルザカタログ」、生産財通販サイト「アペルザ eコマース」の3つ。

「アペルザクラウド」は、製造業に特化してメーカー様・商社様の販売/営業活動の効率化を支援するクラウドサービスです。顧客情報を収集し活用するデータ営業に必要な機能が備わっており、付加価値と生産性の高い営業活動を支えています。

「アペルザカタログ」はメーカーが自社製品の情報を掲載し、製造業のエンジニアが情報収集をするポータルサイトです。製品やサービスに関する情報を掲載することで、見込み客からの引き合いを獲得する目的でご利用いただいています。

「アペルザ eコマース」は、製造業の中でも生産財と呼ばれる商材に特化したBtoBのマーケットプレイスです。

独立したビジネス部門としてのCS

― 御社の組織構成とCSのチーム編成について教えてください。

組織としては、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、クライアントサクセス、メディアグロースの5つが、ビジネス部門として定義されています。ここは社長直結というか、階層としては1階層です。

それ以外にテクニカル部門として開発の技術チームなどもあります。

CS内に明確な組織としてのチーム編成はありません。大きく役割別に、メディア系のオンラインプラットフォームを担当するCSチームと、クラウドSaaS系を担当するCSチームという形に分かれています。

人員の配分については、全社員が60名弱で、そのうちCSが、今現在、私含めて7名です。

CS内では、メディア系が2名、SaaS系が4名。私はクライアントサクセスのマネージャーとして、CS全体をまとめています。

― CSについては、全社的に理解を得られているのでしょうか?

もともとクライアントサクセスは、事業の根幹として強化するべき部署として動いていました。インサイドセールやマーケティング部門のマネージャーはアペルザのCSをリードしていた人が担当しています。

企業文化として、CSがかなり根付いています。トップがCSの重要性をしっかり認識してパワーをかけてきたところが大きいですね。

あと、弊社はSaaSの中でもバーティカルSaaSと呼ばれるところなので、ターゲットとする企業の母数が限られています。解約が大量発生したら後がなく、市場そのものを失ってしまいます。事業の立ち上げフェーズは無理に社数を増やすのではなく、限られたお客様を丁寧に対応することが重要です。

ですから、プロダクトとしてしっかりご継続いただける、満足いただける、サクセスする、このような方向性を固めていくことが、文化としてかなり根付いているのです。

丁寧なヒアリングで「事前に見えにくい解約」への感度を高める

― CSのメイン業務について教えてください。

CSの仕事として、「お客様の対応」「CSの仕組み作り」「社内へのフィードバック」などの業務があります。

1つ目のお客様の対応についてですが、オンボーディングからアダプションまで同じ担当者が継続して関わるようにしています。製造業は既存の取引先から再購入することが多く、取引先と長期的に関係性作る文化があります。そのような文化を持つお客様に対して「担当者がどれだけ理解してくれているかによって、顧客の満足度が変わってくる」という仮説を立てています。ですから、あえてオンボーディングとアダプションでチーム分けをせず、同じ担当者が対応するようにしています。

2つ目としては、CSの仕組み作りや仕組みの改善です。仮説と検証を繰り返し、CSとしての仕組みを常にブラッシュアップしていくこと。これも、一つの業務として認識しています。

3つ目は、社内へのフィードバック。これもCSのメイン業務です。「この市場にはお客様からこんな声がある。マーケティングとしてこういう伝え方をした方がより効果があるのではないか」といった仮説を立てるためには、CSが集めてきた顧客の声が重要です。また、購入を検討されているお客様は、過去の事例を聞いてくることが多々あります。その過去事例として、既存のお客様の課題や、どのようなアプローチをして成功に至ったかという情報について、CSがしっかり事例を集めておく。そして、営業やマーケティング部門にフィードバックする。これは重要なメイン業務と認識しています。

― メイン業務2つ目の「CSの仕組みづくり、仕組みの改善」について、今どのようなことに取り組まれていますか?

解約には、「事前に見える解約」と「事前に見えにくい解約」があると思っています。

見える解約でいうと、例えば活用度が悪いとか、成果体感を得られていないとか。これらについては、解約リスクが高まることが目に見えて分かるので、対応することが可能です。

一方で、前触れなく解約が発生してしまうという事例もあります。満足して使っているように見えるのに、違うツールに乗り換えてしまうなど。そういった解約は、どんな企業にも一定発生しうると思います。

そこをいかに減らすことができるか、現在、検討しています。

― では今、「事前に見えにくい解約」について仮説を立てている段階なのですね。

そうですね。解約となった企業に関しては、念入りにコミュニケーションを取り、なぜ解約に至ったのか、ヒアリングしています。

1年、2年と、年単位でコミュニケーションを取ってきたお客様なので、解約するとはいっても、お話は聞かせてくださるんです。「正直言うとね、こういうところがあって…」と。期待していた効果に対して足りていなかったのか、それとも、実はサポートに満足していなかったのか、など。

本質的な課題は一体何なのか、直接お話を伺って確認しているところです。

カスタマーサクセスがもたらす本質的な効果を追求する

― CSで追っているKPIについて教えてください。

メインで持っているKPIは、NRR(継続率)です。

しかし、継続率は過去にどのようなアクションをしてきたかによって結果として現れるものなので、今何か改善したとしても今月の継続率を上げることは非常に難しい。

継続率を担保するために、中間指標を設計する必要があると考えています。

そこで、定番ではありますが、ヘルススコアをしっかりチェックしています。

あと、今後は、CTA(Call to Action:行動喚起)の消化率も見ていきます。これは、お客様に対してすべきことができているか、その消化状況です。

継続率は結果にすぎないため、今すぐどうこうできるものではありません。半年前、1年前に、どのようなオンボーディングをしたのか、どういうアクションをしたのか、それが結果として継続につながる。だからこそ、この前段階の指標が重要だと思っています。

― CTAはどのように設計しているのですか?

例えば、「この条件に当てはまるお客様は、今後解約リスクが高まる可能性がある」という特定の条件に対して、「こういう提案をする」というセットを作っておきます。そのアクションをしっかり期限までに行うことができているか、できていないか、そこを見ていきます。仮説と検証を繰り返し、適切なアクションを導き出していく感じです。

顧客対応が成果に結びつなかい理由は、2つに分解できると思っています。1つは、やり方が間違っていた場合。そしてもう1つは、やり方は間違っていないけれどやっていなかった場合。そこを見極めて改善できる仕組みが必要だと考え、CTA消化率をKPIに置くことにしました。

― 他に、KPIに設定している指標はありますか?

これから使おうと思っている新しい指標が、もう1つあります。それは、CES(CustomerEffortScore:顧客努力指標)です。

CESは、「お客様が努力することなく、プロダクトを使うことができているかどうか」という指標になります。

CSの業務を抽象化、本質化していくと見えてくるのが、お客様にアウトカム(結果/成果)を提供できるのか、エクスペリエンスを提供できるのかということ。

よく、CS (Customer Success) = CO (Customer Outcomes) + CX (Customer eXperience) などと言われますが、そこを追っていく組織でありたいと思っています。ですから、そこに紐付くKPIを設計する必要があると認識しています。

CO(顧客の成果)に関しては、結果としてNRRに紐づいてくるところで、ヘルススコアの中で成果に関わる指標を入れて評価しています。

ただ、CX(顧客体験)について測るための指標は、まだあまり定義されていません。我々は、CESがそれに該当するのではないかと考えています。

問い合わせなどをすることなくプロダクトを使うことができているか。新機能が出たときに、直感的にすぐに使えるか。こういったところをスコアリングし、お客様がストレスなくプロダクトを活用できているか、スコアが改善されているかどうかを見ていこうと思っています。

サブミッションを持つことで更なるブラッシュアップを

― 強いCSチームを作るために心がけていることはありますか?

お客様対応がメインのミッションとして当然あるわけですが、それ以外に、サブミッションを持つようにしています。

例えば、「CSマーケティングをリードする」「コミュニティをリードする」「OPSで行うべきことを考える」といった思考系のミッションをメンバーが持つようにしています

これは、課題設定力や論理的な思考力、仮説検証力など、CSに必要な力を鍛えるための取り組みです。

すぐに効果が見えてくるものではありませんが、継続的に行うことで、半年後、1年後、2年後に強力なCSチームになると信じて、サブミッションに取り組んでいます。

― それは、どのようなスパンでミッションを与えているのでしょうか?

業務の見直しが四半期に1回あるので、そのタイミングでサブミッションについて見直しています。

とはいえ、四半期で成果が出るものは少ないので、見直しはしつつも中長期的に取り組みながら、仮説検証を繰り返していくべきと思っています。サブミッションについては、個人の特性や何にモチベートされるか、何が好きかといったところも含めて総合的に考えて決めています。

― 最後になりますが、CS部門では、どのような人材を求めていらっしゃいますか?

先ほどサブミッションのところでもお話ししましたが、「課題設定が適切にできるか」「論理的思考があるか」「仮説・検証ができるか」ここは、重要です。

それに加えて、「過去の成功体験に縛られず、アンラーニングできる」ことも重要だと考えています。

CS経験者であっても、プロダクトが変われば打つ手も変わります。「過去こうだったからこれで成功するはず」というところに固執せず、1から新しいことを学び直す、考え直す。これができるかどうかが大事です。

これは、我々も日頃から心がけていること。これまでの成功体験に慢心せず、適切な課題設定と論理思考、仮説・検証によって、CSをアップデートし続けていきたいと思っています。

アペルザの採用情報

https://www.aperza.com/corp/recruit/

稲田 和絵

フリーのブックライターです。
書籍原稿を中心に、WEBメディアや広報誌などでも執筆しています。
BtoB案件急増中。
https://book-writer.com/profile

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