全ての職はCSに通ず。IBMが見据えるカスタマーサクセスの未来を大解剖

2023-07-24 イベント

2021年7月28日に開催したオンライン対談イベント『全ての職はCSに通ず。IBMが見据えるカスタマーサクセスの未来を大解剖』では、日本IBMよりカスタマーサクセス部長の戸倉彩氏にご登壇いただき、株式会社Asobica取締役CCOの小父内信也氏がモデレーターを務めました。

今回イベントに参加できなかった方にもお楽しみいただけるよう、本レポートではイベントの内容をダイジェストでお届けします。

戸倉彩 氏(以下、戸倉)
日本アイ・ビー・エム株式会社 テクノロジー事業本部 第二カスタマーサクセス部 部長

小父内信也 氏(以下、小父内)
株式会社Asobica 取締役CCO

イントロダクション

戸倉:今回は『IBMが見据えるカスタマーサクセスの未来』と題しましてのカスタマーサクセス(以下CS)の魅力や私たちIBMのカスタマーサクセスマネージャー(以下CSM)が取り組んでいることをお話しします。

戸倉彩と申します。前職がマイクロソフトでキャラクターの運営をしながらクラウドを広める活動をしており、現在は日本IBMに勤めております。

今年からテクノロジー事業本部に配属になり、7月1日から第二カスタマーサクセス部長に就任しました。それから兼務としてIBM Federated Developer Advocateも担当しています。IBMにはIBMテクノロジーを開発者の方々に寄り添って伝えていく、そして一緒に手を動かしたり、体験していただくことを行うロールとしてDeveloper Advocateという役割があります。Federeted、つまりグローバルのプログラムとしてこういった活動を行っています。

また、CSに関係することでご紹介したいのが拙著『DevRel』です。皆様は広報あるいは技術広報という仕事をご存知だと思いますが、これはPublic Relationsを略してPRと呼ばれています。それに対して、今デベロッパーと企業の密な関係性がイノベーションを創出するとしてDeveloper Relationsを略したDevRelが注目されています。IT業界では外資大手を中心に早くから注目されて日本でも上陸し、専門の役職を置くなどデベロッパーに向けた情報発信が重視されています。

この本には私がマイクロソフトでエバンジェリストおよびIBMのデベロッパーアドボケイトの活動をしていた約10年間の学びをまとめているのですが、その中からCSにとって重要な3つのCをご紹介します。

1つ目がCODEで、テクニカルな情報を提供することです。2つ目がCONTENTSで、ただテクノロジーを広めるだけでなくコンテンツの品質や情報発信するタイミングも重要で戦略的に行う必要があります。そして最後がCOMMUNITYで、企業とエンジニアの方々、ユーザーの方々などコネクションを作り共に成長していくことが鍵になっています。

創業なんと110周年。”もっと必要とされる存在になる”ことを目指し続ける

ここからが本題になりますが、本セッションの目的は日本IBMのCSをメインに、そのストーリーを通じてCSの皆様の役割や取り組みについて理解を深めていただくことです。

まずいきなりクエスチョンですが、皆様は「IBM」と言うとどんなイメージがありますか?おそらくハードウェアからソフトウェア、そして最近ニュースにもなった量子コンピューターのイメージが多いかと思われます。

IBMは正式名をInternational Business Machineと言います。グローバル企業で、テクニカル面で皆様のビジネスをご支援しますという意味がここに全て込められています。

歴史が長く古い会社というイメージを持たれている方も多いと思いますが、2011年に創立100年を迎えています。しかしIBMが古い会社であることが、すなわち古いことをずっと積み重ねているかというと、そうではないと思います。

IT業界は数十年規模で合併が行われたりしてなかなか継続が難しいことに直面する企業様も多いと思います。そんな中で、IBMはなぜ長い歴史の中で存続し続けていると思いますか?

NASAが月に上陸する時のコンピューティングをテクノロジー提供していたり、1964年の東京オリンピックに社員が携わってスコアの集計システムを構築していたりと、目には見えにくいところでIBMはサービスを支えています。

この背景には、「Be Essential」”もっとも必要とされる存在になる”という言葉があります。IBMの存在目的として、このキャッチフレーズを使っています。

この言葉にも表されているように、時代の変化に応じてお客様と共に自分たちも変革していくことで世の中をポジティブに変えていこうと考える企業遺伝子がIBMerには備わっていますし、この先もそれを紡いで行こうとしています。

IBMのカスタマーサクセス

ここからはCSの話に入ります。IBMは5年前からグローバル規模でCSをスタートしました。当初はIBMのSaaSおよびIBM Cloudを対象に、購入後のお客様あるいはリニューアルといったところをチームでサポートしながら、Revenue Grouth、Renewal Rate、NRRをKPIとして取っていました。

ところが、2019年にIBMはRed Hatという会社を買収しました。この買収は市場にもIBM社内にも非常に大きいインパクトを与えました。IBMではさまざまなプロダクトやソリューションを提供していますが、特に昨今ハイブリッドクラウドとAIソリューションに戦略的に取り組んでおり、Red Hatのテクノロジーを用いて安全な運用管理をした上で、さらにAIやデータ周りを運用できるソフトウェアとしてIBMクラウドパックを提供することを発表しました。そこで、今までのIBMクラウドやSaaSのサービスのカスタマーサクセスに留まらず、ソフトウェアをお客様にご活用いただき、協業を加速し、ビジネスに貢献するために、CSが今年からリニューアルしました。2021年にはグローバルで1000人規模でCSM体制を拡大すべく、日本でも第一部、第二部でチームを分けながら人数を増やしています。

(戸倉さん作成資料より、抜粋)

私自身IT業界に18年のキャリアを持ち、今までCSとして勉強してきた中で、IBMのCSの魅力でもあり難しいと感じるところでもあるのは、対象となる範囲が広いことです。ターゲットになっているのがSaaS、IBMクラウド、そしてソフトウェアになりますが、このソフトウェアはなんとIBMクラウド上で動くだけでなく他のクラウド上でも動きます。そのためソフトウェア群もWebアプリケーションやデータ周り、APIの統合、自動化、マルチクラウドマネジメント、セキュリティの6つのソリューションを全て網羅する形で存在しているので、案件によってはAWS、あるいはMicrosoft Azureなどのパブリッククラウドの上でCloud Paksが動いています。あるいはメインフレームと呼ばれているIBMのサーバーがあって、その上でRed HatのOpenShiftを動かして、さらにこういったミドルウェアの上でお客様が実際にアプリケーションを動かすことがあります。このように、IBMのCSがターゲットにしているプロダクトは奥が深く、IT業界の中でクラウドやハードウェアのスキルセット、及びコンテナ周り、セキュリティやデータなどについての色々な知識、テクニカルなスキルが必要になります。

そして、私は2020年12月まで約10年間エバンジェリストやアドボケイトとして広く一般の方々に向けて技術を広めることに使命感を持って取り組んでいましたが、CSに完全に舵を切る決断をし、2021年の1月に「カスタマーサクセスマネージャーはじめます」というnoteを決意表明も含めて書きました。

カスタマーサクセスの役割は「お客様を成功に導く」こと

次に、IBMのCSの役割をお話しします。IBMのCSは基本的にご購入いただいたプロダクトをベースにお客様のビジネスを成功に導くことがミッションになっています。そしてそのためにはCSMのメンバーが能動的にお客様に働きかけて、中長期的なビジネスやIT戦略に寄り添って活動することが重要です。お客様の立場に立ちお客様ファーストで、かつIBMの製品の価値を最大限にご活用いただくことでWin-Winを目指すことが役割です。

(戸倉さん作成資料より、抜粋)

そして業務内容がこちらになります。対象となるプロダクトを軸にお客様が求められているソリューションを提案し、アーキテクチャのデザインやMVP(Minimum Viable Product)を構築します。それからPoCと呼ばれることもありますが試しに作ってみたり検証するために色々な環境構築を支援したり、実際にデプロイメントといって本番環境に向けて色々な部分を構築する支援をしたり、テクニカルなアドバイス提供をしています。

密に社内連携しながら協業するチーム力が鍵

カスタマーサクセスは基本的にお客様に向けてお仕事をしていますが、非常にチーム力が問われる役割だと考えています。特にIBMの場合は担当する製品も非常に多く、テクノロジーが関係するところがあるので、一番お客様のことを知っている営業の方々やテクニカルセールスの方々と協業してお客様の状況をヒアリングしたり、製品戦略のところでどういった使い方、事例があるかの最新情報について開発部門やサポートの方々と会話したり、何か障害が起きてしまった場合はサポートの方々と連携しています。また、日本IBMのCSはGrobal Teamとも連携を強化しながら業務を行っています。

カスタマーサクセスのKPI

それからKPIは、まず1つ目がRetention(契約更新率)、2つ目がChurn Rate(解約率)、3つ目がExpantion(既存顧客からの売上増加)です。既存のお客様がアディショナルで違うソリューションも使ってみようということになった場合、CSが会社に貢献できたことになるためKPIとして見ています。

小父内:IBMさんだと商材が山ほどあると思いますが、クロスセルはCSの腕の見せ所なのでしょうか?

戸倉:そうですね。営業がご紹介する新機能や新製品をその場で即決するよりかは、何かしらPoCやMVP(Minimum Viable Product)を動かした上で本番環境を構築しようと判断されるお客様が多いので、そこでCSMがお客様の信頼をきちんと得ながら、正常に動く製品をお客様にデリバーして、実際に動かしてみた上で新機能や新製品を提案することでクロスセルにつながるので、そこはCSMの腕の見せ所ですね。

小父内:CSが担当する案件はどのように決めているのですか?

戸倉:基本的にはグローバルCSM戦略に基づいてターゲット選定が行われます。その中には、タイミングや案件によってはCSMよりもSIerが中心になって進む案件もあるので、きちんと案件の状況や体制を把握して適切な人材を配置しています。また、CSMも全てのテクノロジーの専門とは限らないので、案件に適した専門性の高い人とマッチングするようマネージャーがアサインしています。

CSMの活動に欠かせないツール

CSMが活動する中で使っているのが、Gainsightというツールです。Gainsightは非常によくできており、IBMではグローバルでこのツールを使ってCSMの活動を行っています。また、先日Gainsightがオンラインセミナーを開催していたのですが、そこでIBMのCSのバイスプレジデントが大規模なCS組織を展開する中で考えたことや目指している世界観をお話ししたセッションがありました。その中で重要な3つのPについてご紹介します。

CSMにとって重要な3つのP

まず1つ目がPeopleです。IBMではCSM自身のオンボーディングとして9週間CSM Universityというテクニカルな研修コンテンツを用意しています。メンターやバディをつけて仲間同士で助け合う文化を育てながらGainsightを使ってCSMの業務を学びます。

2つ目がProcessです。IBMでは地球上で最高のCSMチームを作るために、『THE SALES ACCELERATION FORMULA』の中で紹介されている手法に基づいて理想的なCSM像を描いた上で、きちんと数字で可視化しながら、CSMに適切なメンバーを募って固めていくことが大切だと言っています。

3つ目がPracticeで、CSMとして働く上で色々な手法やアセット、ツール、テクニカルスキルが大事だと言っています。IBMで初めてCSMにチャレンジするメンバーももちろんいるのですが、プレイブックが用意されていて、そこにはソフトウェアをご購入いただいたお客様のオンボーディングやデプロイメント、どうスケールしていくかといったシナリオの目安が書かれています。これらは全てGainsightに入っており、お客様のステータスやグロウスプランに添ったポテンシャルが色別に可視化できるようなダッシュボードがあるので、その動向を見ながら管理しています。

次に、CSMになって驚いたことをお話しします。まず大型の案件になると登場人物が多いことにすごく驚きました。自社の関係者やパートナーさん、そしてパートナーさんの中でも販売バートナーさんやシステムを構築するパートナーさん、運用を管理するパートナーさんなど様々いて、それからお客様と場合によってはグループ会社の方々など沢山います。CSMはそのように多種多様な方々とのコラボレーションにおいて非常に重要な役割を持っているなと感じます。

(戸倉さん作成資料より、抜粋)

それからCSMにシフトする際の心構えについて、IBMではCSをCX(Customer Experience/顧客体験)とCO(Customer Outcome/成果)を足したものであると定義しています。さらに私たちのカスタマーとはつまりデベロッパーでもあるので、デベロッパーリレーションズがCSにとって重要なキーワードだと考えています。

続いて、デベロッパーアドボカシーの重要性についてです。プロダクトに対してパッションを持って、わかりやすく伝える、魅せる、体験してもらうという3つをカスタマーサクセスの入口として大事だと考えます。また、ご利用いただいた後に新機能が追加されることもあるので、この3つを重視しながらCSMがサイクルを回していくことが重要です。

また、CSMは本当に魅力的な仕事だと思っています。カスタマーサクセスを通じてプロダクトをデプロイして社会に貢献することにつながるのが醍醐味だと思います。

そして個人的に続けていきたいことはデベロッパーリレーションズです。その上で、コミュニティが非常に大事だと思っています。IBMはユーザー、あるいは技術者の方々とリレーションを持ち共創するプラットフォームを実現するためにIBM Community Japanを立ち上げました。元々ユーザー会というものは歴史的に存在していたのですが、新しく研修プログラムなどを提供し、参加者と一緒に研究活動をしながらアウトプットにつなげています。

最後に、今カスタマーサクセスが注目されている中でCSMは非常に大事な役割であると思っています。お客様の成功を実現するために対話しながら、社内やパートナーさんと連携しながらテクノロジーで成功に導くこと、すなわちオーケストレーションを指揮することが使命であると考えています。

cxin

株式会社Asobica cxin編集部。
コミュニティやファンマーケティングに関するノウハウから、コミュニティの第一人者へのインタビュー記事などを発信。

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