「ビジネスで1番大切なものはカスタマーサクセス」と語る、CSカレッジ丸田氏が描く未来

蓄積されたビックデータからAI(人工知能)のディープラーニングを活用して、多様な業界・シーンで社会実装事業を展開する株式会社ABEJAにて、Insight for Retail事業部 カスタマーサクセスを務めながら、個人では、カスタマーサクセスコミュニティ「CSカレッジ」の立ち上げ、運営を行っている丸田絃心(まるた げんしん)さんに、お話を聞いてきました。

丸田 絃心氏
株式会社ABEJA Insight for Retail事業部 カスタマーサクセス
カスタマーサクセスコミュニティ「CSカレッジ」主宰
CS HACK 第2回 天下一武闘会 優勝

@genshin_maruta

ー丸田さんのこれまでのキャリアを教えて下さい。

大学を卒業後に新卒でクレディ・スイス証券に入社しました。その後、広告代理店の起業を経て、コンサルティングファームへ転職しました。そこでは、イノベーションや新しい事業を生み出すことに面白みを感じ、「人を育てる」「人を変える」ようなことをやっていました。ただ、それに2年間取り組む中で「人は容易に変わらない」ということに気付いてしまったのです。
というのも、対象が大企業の50~60代の人生経験を積んだ方だったこともあり、研修を受けて、突然「うちの会社を変えるんだ」と目覚めるようなことはなかなか起きないと痛感しました。この気付きから、日本の企業組織で起こる忖度や会社を成長させるより波風を立てずにやっていこうという風潮に危機感を覚えて、今自分がやろうとしていることを海外という枠でやってみたいと思い、シンガポールに転職活動に行きました。

その中で、シンガポールに支社があるABEJAに出会います。そこで、「何かやってみようと思ったときに意識の変革やMBAの知識では人や会社はなかなか変わらないけれども、テクノロジーやツールという具体的な武器があれば、人や会社は大きく変わる」という話を受け、自分が課題に感じていたことがクリア出来るという期待感を持ったので、ABEJAへの入社を決めました。
入社後、今までの人材育成の経験や僕がやりたいことを話していく中で、それってカスタマーサクセス(CS)だよねという話になり、CSをやることになりました。だから、僕はCSになりたくてなったというよりは、自分のやりたいことと偶然マッチするのがCSだったという形です。

ABEJAでCSを始めて、自分が今までやってきた研修のワークショップや人材育成のノウハウを、ABEJAのお客様だけではなく同じCSの人たちにも提供していきたいと思って始めたのがCSカレッジです。

450人以上が参加する、コミュニティのつくり方

ーCSカレッジには、現在何名が所属されていますか。

現在は450人強のコミュニティになっています。2019年11月7日にスタートと、まだ始まったばかりなので、他のコミュニティに比べると小さいですが、今後はオンラインを中心にこれからどんどん広げていきたいなと思っています。

ー450名以上が所属は、個人が立ち上げたコミュニティとして、かなり大きな組織だと思います。立ち上げの際は、どこから着手されたのでしょうか。

まずは、戦略をしっかり練るところから行いました。普通のセミナーのようなイベントなら単発で終わっても良いと思いますが、コミュニティは長期的・継続的に参加してくれることがとても大事だと思うので、そのためにどうすべきかを考えることには時間を掛けました。
具体例としては、「どういうコミュニティにすれば、CSに携わる人たちが喜んでくれるか」とか、「CSを学ぶコミュニティ・イベント・セミナーが数多くある中で、CSカレッジは他と何が違うのか」「CSカレッジならではの良さや参加する意味」などですね。

現在のCSカレッジは、ディスカッションやワークショップといったインタラクティブなイベントを開催していますが、それも既存の学ぶ場で解決出来ていない部分は何かという仮説を立てた上で設計しています。

(CSカレッジのポジショニング戦略)

ーノウハウを提供することだけを考えると方法は色々あると思いますが、丸田さんがCSカレッジをコミュニティにしようと思ったきっかけを教えて下さい。

CSに携わる方々に学びや繋がりをどういう形で提供すれば、効果の最大化が図れるだろうと考える中でコミュニティに辿り着きました。
例えば、1人の講師対生徒という構造では、その講師の知識やスキルが学べることの上限になってしまいます。それに対してコミュニティなら、参加する人同士が知識を提供し合い、学び合う構造になるので、最も多く知りたい知識を得られて良いなと思いました。

CSはまだ新しい領域ですし、1人で出来ることは限られているので、共に学び合える仲間が、一緒に業界を盛り上げていく場として、コミュニティの形が1番フィットすると思っています。

(コミュニティで学ぶ意味と価値)

ーこれが、丸田さんの考える「コミュニティタッチ」なのですね。

そうですね。すでに実践している当事者同士がお互いに情報交換や課題解決をしあう場の方が、一方的に誰かが何かを教えるような場よりも効果が高いと思っています。

コミュニティ運営の具体的な取り組み

ーCSに携わっている人の中でも、既に深く取り組んでいる層と、これから立ち上げる層に分かれていると思いますが、それに対して気をつけていることはありますか。

CSカレッジは、コミュニティへの参加者に応じた棲み分けはまだ出来ていないため、現在はCSを始めて2日目の人と2年目の人が、一緒の場に来ている状況です。ただ、今後は習熟度や課題感に応じた機会提供をしていかなければと思っています。例えば、「CSカレッジベーシック」と「CSカレッジプロフェッショナル」で分けるとかですね。

運営で気を付けていることとしては、こちらからの質問は出来るだけCS経験の長い人に最初にするようにしています。特に、CSカレッジは「受け身で学べる」場ではなく、ディスカッションが中心の場になっているので、CS経験の浅い人はやや大変だと思います。
そのため、大学でいう「ティーチングアシスタント」のようなフォローをしてくれるサポートメンバー(チューター)を募っていて、そのメンバーにヘルプに入って貰って、議論のテーマの難易度が高くて議論が止まってしまった参加者を上手くサポート出来るような体制を取ったりもしていますね。

ーユーザー同士での自発的な交流を生み出すための施策は何かやられてますか。

今のところCSカレッジでは、自発的な交流よりも、運営側の発信の割合が高く、それに付随して交流が生まれている場面が多いです。ただ、イベントの前後などでホットなトピックスがあった時には、毎回来てくれている方や熱量の高い人、いわゆるコミュニティリーダーのような存在感のある方に「CSカレッジのFacebookグループに質問を上げて下さい」と裏側からお願いして、コミュニケーションが生まれるような働きかけはしています。

コミュニティの中での交流の自発性は参加者同士の「心理的な安定性」に相関すると思います。「誰がいるか分からない」とか、「呼びかけても反応してくれるか分からない」というところに何かを投げ込むのは、けっこう勇気が必要ですよね。逆に、どんな人がいるか分かっていて、参加者とある程度の関係性が築けているところなら、意見や質問などを投げ込みやすいと思います。

だから、なるべくイベントの中でグループワークやネットワーキングゲームなどの「仲良くなる」「知り合いをつくる」ための仕掛けは作っています。例えるなら「新しくクラスに転校してきた人」でも、すぐに他のクラスメイトと打ち解けて会話ができる場づくりのようなものが、コミュニティ運営には大事だなと思っています。

(コミュニティの自発性を促進する要素)

ー今は自発的な交流が生まれるまでの種まきをしている感じですね。確かに最初は入りにくい気持ちはわかるので、心理的な安全性が担保される働きかけは、とてもありがたいなと思います。

「軸を統一する」

ー丸田さんはCSカレッジを通して数々の会社を見てきたと思いますが、そんな丸田さんが思う「上手くワークしているチーム」の特徴はありますか。

いくつかありますが、まずはきちんと顧客理解をしていることがとても大事だと思っています。
CSとしてよくある上手くいかない例がお客様に対して「こういう風にすればうまくいくよ」という”べき論”を押し付けるだけになっていて、本当にお客様がそれをやりたいのか、業務の中で困っているのかを考えられていないということですね。相手の深いニーズや課題感に即していないとお客様は動いてくれないので、そういう場合CSがうまくワークしないケースが多いです。

反対に、顧客理解がCSを中心にきちんと社内で共有・浸透しているところはCSがワークしていると思います。またお客様の課題感や要望に基づいてCSをカスタマーセントリックに推進する強いリーダーがいるところも上手くいっている一例ではないでしょうか。

あとは、前提としてプロダクトがお客様の課題解決に紐づいているかどうかも大事ですね。どうしてもプロダクトが未成熟で課題解決に紐づいていないと、運用でカバーする必要が出てくるためCSという名の「ものすごい手厚いサポートとコンサル」に寄っていってしまいます。そういうチームはCSのメンバーからも「これってCSなんだっけ…?」という疑問の声が上がるようになります。

ー実際にABEJAのCSはどうでしょうか。

僕はABEJAで約2年間CSをやっていますが、入社当初と比べたらすごく改善してきたなという感じがしています。元々、ABEJAには「AI」というパワーワードがあります。それが良い意味でお客様を惹きつけてインバウンドでの問い合わせをたくさん頂きますが、お客様の期待値が高くなりすぎる場合があるという時にマイナスの側面もあります。

そこの期待値のすり合わせが上手く出来ないと、CSが頑張って支援をしようとした時に、「AIが全てやってくれるんでしょ」というミスマッチが起きてしまいます。そういったお客様の抱く期待値ギャップをうまく調整し、ABEJAのプロダクトを使う際のお客様の真のニーズや課題感がどこにあるかを特定しながら、CSの在り方を模索してきました。

ー逆に、失敗事例はあったりしますか。

逆に我々からお客様に対する期待値が高すぎて、レベルが高いことを最初から要求してしまったことはありますね。コミュニティのリーダー創出とロールモデルの提示もそうですが、ヒーローマーケティングのようなことをするときに「ヒーローが是である」「これだけ成功した人が100点満点」「みんなここを目指すべき」と非常に高い目標を既定値として置いてしまうと、お客様が「急にエベレストに登るように言われたけれども、俺は高尾山に登れれば良かった」ということが起きてしまいます。大事なのは高い山に登ってもらうことではなく、お客様が登りたい山に導くことだったんです。

本来、CSがお客様はどこを目指したいのかをうまく擦り合わせながら、登る山に合わせて支援していくことが必要ですが、それが初めはわかっていなくて出来なかったですね。みんな言えば出来るだろうという楽観的な考えを持っていましたが、必ずしもそんなことはなかったというのが失敗例です。

楽しみながら学べる場として、CSカレッジの進化

ー丸田さん個人として、コミュニティやCSにかける想いや考えについて教えて下さい。

僕個人としては、「お客様に成功してもらう」「成果を得てもらう」ということが、ビジネスで1番大事にすべき要素の一つだと思っています。だから、それらの実現に向けてとことん伴走出来るCSは色々な職種の中でもとても本質的な仕事の一つで、これからの世の中ではますます求められていくと思います。その反面、「これが正解」という決まった型がまだないので、取り組むべき方向性を見定めるのが難しいというのも本音としてあると思います。
だからこそ、新しくCSに取り組む人やもっとレベルアップしたい人に対して、コミュニティという形で学べる場を継続して作っていきたいと思っています。

コミュニティを含めた様々な学びの場もこれから一方向的な情報発信ではなく、双方向的なやり取りの中から学びを得る形が主流になってくるのではないでしょうか。今後ビジネスの中ですごく求められるであろうカスタマーサクセス的な視点でのコミュニティの作り方や運営方法などのノウハウを提供していくことで、業界を盛り上げていきたいです。

ー最後の質問です。CSカレッジを今後どうしていきたいか、考えはありますか。

コミュニティの関心軸や地域軸をもっと細分化していきたいと思っています。先ほどお話したベーシック向けやプロフェッショナル向けのような分け方もそうですね。色々な人がフィット感を持って学べる場にしてきたいです。

ただ、何かを学ぶのは継続することが大事だと思っていますので、楽しみながら熱量を持って学び続けれられる仕組みが必要です。エデュケーション(学ぶ)とエンターテインメント(楽しむ)を掛け合わせたエデュテイメントをCSカレッジで体現していけたらと考えています。年明けに実施したCSを学べるシミュレーションゲームもその一環で、今後はそのようなエデュテイメント色を強めたイベントやコンテンツをどんどん出していきたいです。

(CSカレッジでエデュテイメント・コンテンツ(ゲーム)を実施した時の写真)

小父内信也

株式会社Asobica CCO
2010年、名刺管理システムのSansan株式会社に入社。データ化部門責任者を経て、名刺アプリEightのコミュニティマネージャーへ。現在は、株式会社AsobicaにCCOとして参画中。

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