「カスタマーサクセスは、職種というよりも文化」 稲船氏が語る、SmartHRが高い継続率を維持する要因とは

人事労務の効率化を実現し、働き方改革をサポートする「クラウド人事労務ソフト」を提供する株式会社SmartHRは、登録社数20,000社以上、サービス利用継続率99.5%以上という驚異的な数字を誇っています。そのSmartHRを支えるカスタマーサクセスグループでマネージャーを務める稲船 祐介さんに、これまでのカスタマーサクセス経験も交えてお話を聞いて来ました。

稲船 祐介氏

株式会社SmartHR カスタマーサクセスグループ マネージャー

大学卒業後、ソフトウェア開発会社にて業務アプリケーションのプログラマーとしてキャリアをスタート。 給与計算ソフトや院内物流システムのUI開発に従事。2007年より、Web制作会社のウェブディレクターとして大手クライアントのウェブサイト制作やスマートフォンアプリケーション開発のディレクションを多数担当。2012年に株式会社ベーシックへ入社し、企業のWebマーケティングを支援するSaaSプロダクトのPMやカスタマーサクセスチーム立ち上げを経験。2019年1月、クラウド人事労務ソフトを提供する株式会社SmartHRへ入社。2020年1月よりカスタマーサクセスグループのマネージメントを担当。

twitter:@inaship

社会貢献性の高いプロダクトに魅力を感じ、SmartHRへ転職

―まずは、稲船さんのこれまでのキャリアを教えて下さい。

私のキャリアは、社員15名くらいの小さなソフトウェア会社のエンジニアとしてスタートしました。そこでは給与計算ソフトのユーザーインターフェースの構築を担当していたので、それが後々SmartHRを知るきっかけにもなりました。その会社で約6年勤めたのち、Web制作会社に転職して数多くの制作案件のディレクションやWebディレクターのマネジメントを経験させていただきましたが、事業会社で自分の力を試したいと思い、前職の株式会社ベーシックに入りました。

株式会社ベーシックでは、BtoBマーケティング支援サービス‎「ferett One」の前々身となるツールの開発が子会社で始まった時期で、その子会社に出向する形で事業立ち上げに参画することになりました。当時は、社内スタートアップのような位置付けで、メンバーは社長と私の2人のみでしたので、システムの仕様決めもマーケティングも営業もサポートもやらないといけないということで、まさにありとあらゆることをやっていました。そういうことを続けて規模が大きくなっていく過程で、顧客対応のチームを組織化しないといけないという話が持ち上がりました。私が「カスタマーサクセス」という言葉を知ったのは、その組織化を進める会議の中でした。

私としては、お客様にサクセスを提供できていない段階でカスタマーサクセスと名乗ることに若干の抵抗があったのですが、カスタマーサクセスの業務内容を調べた結果、これは絶対にやるべきだと直感しました。そこから、カスタマーサクセス組織の立ち上げを行い、一定の水準まで組織化できたタイミングで、次のステップとしてSmartHRに転職し、今に至ります。

―なぜSmartHRを選ばれたのでしょうか。

私は引き続きカスタマーサクセスを追求したいと考えていたので、まだ経験していない次のフェーズに挑戦したいと思っていました。カスタマーサクセス組織が立ち上たったばかりの企業が多い中で、SmartHRはサービスローンチ直後からカスタマーサクセスに取り組んでいたので、まさにグロースさせるフェーズに入っていました。それが1つ目の理由です。もう1つは、SmartHRが「業種を問わず、全ての企業が抱えている生産性向上の課題に対して向き合う」という社会貢献性の高いプロダクトであることに魅力を感じたことも理由として挙げられます。

実際にお客様から「年末調整が今までの業務量の1/3になりました」等のご連絡があり、仮に国内のすべての企業がSmartHRを導入して正しく活用した場合、膨大な時間が創出できます。このように、世のため人のためになることを体現できるSmartHRに大きな魅力を感じました。

「CS Ops」というユニットの重要性

―SmartHRに入社して以降、稲船さんが取り組まれてきたことを教えてください。

最初の半年で取り組んだのは、プロダクトやお客様のことを知ることです。そのために、まずは顧客対応を行うCSMのチームにメンバーとしてジョインしました。その後、2019年7月の組織変更のタイミングで、SMB CSMユニットのチーフとして組織体制作りを中心に行い、今年の1月からはカスタマーサクセスグループ全体のマネジメントをしています。

ただ、SmartHRは「マネジメント」を1つの役割だと捉えているので、私自身が施策を考えて落とし込むということはありません。大前提に全社のミッションがあるので、その実現の為にカスタマーサクセスとしてやるべき目標を3つのユニットでそれぞれ作り、実現に向けて動いています。具体的には「エンタープライズユニット」、「SMBユニット」、そして上記2つのユニットがお客様対応に専念できるように基盤を整える「CS Ops(オペレーション)」という3つのユニットがあります。

目標はどのチームも連動するように設計していて、それぞれのユニットがそれぞれの役割を持って活動していく方法のため、マネージャーやユニットのチーフは、メンバーが働きやすい環境を構築し最適なパフォーマンスが出せるように支援をしています。

―他の企業では「CS Ops」を作っているという話をあまり聞きません。組織として必要となった背景は何でしょうか。

SmartHRではCS Opsがユニットになる前にも役割自体はあって、メンバーの1人がその役割を担っていました。

そこからユニットとして切り出すことになった理由は主に2つあって、1つはSmartHRでは多くのSaaSを使うのですが、顧客対応を行いながら、ツールや運用を整備するという両立はとても難しいことからです。もう1つは、CS Opsに求められるレベルが上がり、やならければいけない分量が増えたため1人ではその役割を担い切れなくなったからです。

また、エンタープライズとSMBのユニットを分けたことで、それぞれで求められる業務の内容がかなり違ってきましたが、顧客情報の管理は別々にやるものではないので、それを正確かつ効率良くやるために、必然的にCS Opsがユニットになりました。

これにより、他の各ユニットのチーフが課題を相談するようになりましたし、逆に提案も貰えるようになったので、今ではCS Opsのいないカスタマーサクセスグループは考えられません。

―SmartHRでは色々なツールを使っているというお話がありましたが、稲船さんが個人的におすすめのツールはありますか。

e-ラーニングの海外SaaS「Thinkific」ですね。「Thinkific」を使って「SmartHR スクール」という学習コンテンツをリリースしてから、半年間でユニークユーザー数約4,700人に活用していただきました。特に年末調整時期は問い合わせの数が非常に多く、通常時の約3倍の問い合わせがありますが、e-ラーニングを導入したことで、お客様数の増加に対して問合せ数は増えませんでした。

「Thinkific」はコンテンツの提供だけでなく、「e-ラーニングを受講したか」というデータも把握できるようになっているところが良いところです。というのも、ウェビナーをお客様にご案内する際に「事前にコンテンツを受講しておくと、より理解度が深まりますよ」とお伝えしているのですが、事前受講率を確認することで、特にサポートが必要なお客様を把握することができたり、全体の受講率を上げるための改善に活かすことができています。

高い継続率を維持する2つの要因

―SmartHRは、「99.5%」という非常に高い継続率を維持している企業として知られていますが、そのような数値に達する秘訣を教えていただけますか。

継続率が高い理由は2つあると思います。1つは、プロダクトそのものがお客様の課題の解決に役立っているからです。もう1つはマーケティングやセールスの段階で、課題感や期待値を合わせることができているからです。

継続率の話をすると「御社のカスタマーサクセスは、すごいですね!」と言われることもあるのですが、私はカスタマーサクセスグループ自体がその継続率を弾き出しているとは思っていません。その数字はプロダクトとマーケティング、セールスチームによってもたらされているものであって、私たちカスタマーサクセスグループは残りの0.5%をいかに0%にするかをチャレンジしているイメージです。

そもそもカスタマーサクセスは職種というよりも考え方や概念として捉えることが重要ですので、どの職種であってもカスタマーサクセスの概念を理解していることが重要です。SmartHRではカスタマーサクセスが文化として根付いているので、それが継続率の高さに繋がっていると思います。例えば、社員一人ひとりが顧客視点に立っていることと、BtoB SaaS事業に対する理解が深いことがあげられます。

―カスタマーサクセスの立ち上げ期と現在のSmartHRのフェーズでは、アプローチ方法は違うのでしょうか。例えば、お客様の数によって違うなど指標はありますか。

お客様の数の違いは勿論ありますが、事業フェーズの違いが1番大きいと思います。

1対1の対応しかできなかったものが次第に1対nができるようになり、次はn対nになっていきます。それぞれのフェーズで追うべき指標は変わると思います。

また、立ち上げ期は上手くいく確率や可能性を試算すること自体が難しかったので、色々なことを手探り状態で試してみて、かなり失敗もしましたし遠回りもしたと思います。一方SmartHRのフェーズだと、ある程度の予測を立てられますし、積み上げたものをベースにターゲットを絞ってアプローチできる環境があることが違います。

ただ、SmartHRも立ち上げ期を経て今の状況になっているので、あくまでも段階の話だと思います。

SmartHRのカスタマーサクセスチームが求める人材とは

―現在カスタマーサクセスグループとして注力していることはありますか。

特にエンタープライズへの対応を注力しています。もちろん、SMBは注力していないということではありません。主にSMB向けに提供しているオンライン施策やコンテンツの取り組みは、お客様のお時間の合うタイミングでご活用いただける自由度が高いものですので、それをエンタープライズのお客様にも使っていただけるようにすることで、お客様の時間を効率化することだけではなく、私たちもお客様のより深い課題解決に取り組む時間を持つことができるようになります。

―SmartHRのカスタマーサクセスでは、どのような人材を求めていますか。

まずは、SmartHRのプロダクトが解決したい問題への共感度が大切です。さらに、個人で結果を出せば良いという考えではなく、「グループの垣根も超えたチーム全体で高め合って、お客様に価値を届ける」というマインドセットも大切です。そのマインドがないといずれ辛くなるため、お互いが不幸にならないように価値観がマッチするかどうかを見ています。

その上でカスタマーサクセスに特化した話をすると、前述したとおりエンタープライズのお客様が増えてきている一方、SmartHR自体がエンタープライズのお客様の対応経験がそこまであるわけでもないので、その辺りの経験がある方に力を貸して欲しいと思っています。

―最後に稲船さんのカスタマーサクセスに対しての想いを教えて下さい。

私はエンジニアやWebディレクターなど色々なことを経験させてもらった反面、「結局のところ何をやっている人なのか」と聞かれてもうまく答えられないキャリアになっていました。「何でも屋」ではなく、自分自身を説明できる軸のようなものがあるとより良いなと思っていたときにカスタマーサクセスに出会いました。そして今は「カスタマーサクセスをやっています」と答えることができるようになり、想いを持って仕事に専念できるようになりました。そういうこともあって、カスタマーサクセスという仕事にとても感謝をしています。

また、SaaSは継続利用を前提とすることでお客様と事業者がフェアな関係を築くことができる事業モデルなので、世の中にもっと認知され広がって欲しいと思っていますし、私はカスタマーサクセスという仕事を通じて、少しでもその普及に貢献できればと思っています。

Shinya Kojiuchi

株式会社Asobica CCO
2010年、名刺管理システムのSansan株式会社に入社。データ化部門責任者を経て、名刺アプリEightのコミュニティマネージャーへ。現在は、株式会社AsobicaにCCOとして参画中。

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