テクノロジーを活用したカスタマーサクセス始めの一歩

ビジネスの出会い=名刺をクラウド上に蓄積することで、これまで気付かなかったビジネスチャンスを広げ、出会いにイノベーションを生み出すことをミッションとして掲げるSansan株式会社。同社にて、シニアカスタマーマーケティングマネージャーを務める山田ひさのりさんに、カスタマーサクセスを加速させるテクノロジーの使い方について、寄稿頂きました。

山田 ひさのり氏
Sansan株式会社 カスタマーサクセス部 シニアカスタマーマーケティングマネージャー
大学卒業後、ゲームプログラマーとしてキャリアをスタート。 その後Web開発のPG/SEを経て、スタートアップのビジネス開発に興味を持つ。
2013年「世界を変える新たなビジネスを」という考えに共感し、Sansan株式会社に入社。
現在はSansanのカスタマーサクセス部で、全体戦略の立案と既存顧客とのエンゲージメント強化を担当

twitter:@hisyamada

皆さんこんにちは、Sansanカスタマーサクセスの山田ひさのりです。
私はカスタマーサクセスに従事されている方から、CSのご相談を受けることも多いのですが、寄せられる相談で多いテーマの一つに、「カスタマーサクセスにおけるテクノロジー活用」があります。カスタマーサクセスはその業務範囲の広さから、テクノロジーを活用することでレバレッジが効きやすいという特徴を持っています。本記事では『テクノロジーを活用したカスタマーサクセス始めの一歩』と題して、カスタマーサクセスにおいて、どのようにテクノロジーを導入し活用していくべきかを、やや初心者向きに解説して行きたいと思います。

カスタマーサクセスにおいて、なぜテクノロジーの活用が重要なのか?

カスタマーサクセスの業務は既存の顧客を成功に導くことですが、フォローする側から既存顧客(Customer)と見込顧客(Prospect)を比較した場合、圧倒的に違いがあるのがデータの豊富さです。

通常、見込顧客 → 既存顧客になるまでには営業活動が行われるため、その過程で多くの顧客属性データや周辺データが集められます。また契約締結後も、その後の顧客フォローを目的として、カスタマーサクセスによって多くのヒアリングが行われます。つまり、カスタマーサクセスがその活動を行う前には、すでに多くのデータを入手できているという訳です。

適切なカスタマーサクセス活動を行うにあたっては、これらのデータを使わないという選択肢はありません。営業活動~導入前までに集められたデータをフル活用し、顧客をフォローして行けるのであれば、あなたのカスタマーサクセスは極めて有効に機能するでしょう。そしてこれらのデータを効率よく、かつ即時活用できるよう、カスタマーサクセス組織はテクノロジーの活用を推進する必要があります。
* この傾向はB to B領域ではより顕著になります

勘のよい方ならお気づきかも知れませんが、カスタマーサクセスにおいて、上述のようなデータを活用する場合、当然ながら営業活動におけるデータがどこかに蓄積されている必要があります。読者の中には、営業 → カスタマーサクセスで情報を引き継ぐフローがあっても、営業サイドが十分に情報を蓄積しておらず、情報の引き継ぎが不十分なまま顧客フォローを開始せざるを得ない方も多いのではないでしょうか。 カスタマーサクセスにおいて、顧客情報の活用を最大化しようとした場合、その上流である営業活動での情報蓄積・引き継ぎは重要になってきます。カスタマーサクセス組織のみに留まることなく、事業全体で顧客データを集約する発想を持ちましょう。

Sansanのカスタマーサクセス情報基盤

テクノロジー基盤整備の話に本格的に入っていく前に、読者に具体的なイメージを持っていただけるよう、まずはSansanのカスタマーサクセステクノロジー基盤(以後『CS Tech基盤』と呼称)の全体像を説明します。


上記はSansanのCS Tech基盤の概略図です。Sansanでは多くのSaaSを活用しています。(図が複雑になることを避けるために、記載を省略しているSaaSもあります)

この中で要となるのは以下の1~4です。

  1. 顧客データを一元管理する『カスタマーサクセスプラットフォーム – CS Platform』
  2. セールス・契約データを含む顧客情報基盤『CRM – Customer Relationship Management』
  3. 顧客とのコミュニケーションチャネルとなるメール配信システム『MA – Marketing Automation』
  4. 一元化された顧客情報を分析するツール『BI – Business Intelligence』

個人的な見解ですが、カスタマーサクセス組織の立ち上げ段階であっても、1,2のツール類は早急に整備すべきだと思います。顧客の健全性を評価し、優先順位を正しく判断するための契約情報及びサービス利用ログ、そしてそれらを即時に参照できる情報基盤がなくては、カスタマーサクセス活動もままなりません。 尚、1はまだ国内では馴染みがないかもしれませんが、Excelや自社作成のウェブアプリケーション、もしくはkintoneなどの情報管理プラットフォームで代替することも可能です。

CS Tech基盤を構築する際の最大のハードル

CS Tech基盤を整えるにあたってもっとも困難なことは、データのギャザリング(集約)です。上記で「充実したカスタマーサクセス活動を行うには、整備された顧客データが重要」と書きましたが、多くの場合、それらのデータはそれぞれのシステム(多くはSaaS)に散在しています。俗に言う『データサイロ化問題*』です。
* SaaSの利用が進むことで、事業活動に必要なデータが各SaaSに散在してしまい、データの透明化を妨げてしまう問題のこと

カスタマーサクセス活動で活用すべきデータは、多数のシステムにまたがって存在していることが通例であり、例えば顧客の契約データと同顧客のプロダクト・サービスの利用ログを結合するだけでも簡単ではありません。通常、プロダクトを作る時、顧客の契約までを見据えてプロダクトを作成することは稀です。そこまで考えながらプロダクト作りをしていると、その進化スピードを著しく低下させてしまうからです。

そうなると、顧客の契約情報とプロダクト・サービスの利用ログをエクスポートし、外部で結合して別のシステムにインポートした後に管理することになりますが、この作業だけでもそれなりに骨が折れるでしょうし、まして、それらを日次で更新していこうとした場合、そこに多くの工数が割かれることは想像に固くありません。

このように、カスタマーサクセス活動の質を上げるために、多くのデータを集約・結合させようとした場合、何らかのシステムを活用しないと、その運用が破綻するであろうことは明らかです。CS Platformはこのような、データの集約・結合問題を解決するために誕生しました。Sansanで利用している、『Gainsight』というCS Platformはグローバルでも有名なSaaSですが、最近は国内産のCS Platformも出現しつつあります。自社のカスタマーサクセス組織の成熟度に合わせて、導入を検討されるのがよいかと思います。

CS活動を行うための主要ツール

上記で紹介したSansanのCS Tech基盤は顧客データを中心に表現されていましたが、充実したカスタマーサクセス活動を行うにあたっては、それ以外のSaaSも適時利用しなければなりません。(以後、カスタマーサクセス活動に利用するツールを『CSツール』と呼称します)

CSツールは、オンラインセミナー用の映像配信システムやサポートチケット受付システムなど、顧客をフォロー・推進させるためにさまざまなものが用いられます。CSツールをより網羅的に紹介した記事が、海外のブログサイトにあったので紹介させていただきます。以下、その抜粋です。

  • CRMs(e.g. Salesforce)
  • Customer Success Platform(e.g. Gainsight, Totango, ClientSuccess)
  • Marketing Automation(e.g. Marketo, Pardot, Eloqua, HubSpot)
  • Business Intelligence(e.g. Tableau, DOMO)
  • Training and Certifications(e.g. Skilljar)
  • Video Conferencing(e.g. WebEx, GoToMeeting)
  • Advocacy(e.g. Influitive)
  • In-App messaging(e.g. Intercom)
  • Communities(e.g. Jive,Lithium)
  • Helpdesk(e.g. Zendesk,Desk)

出典:ウェブページ『What Is Customer Success Operations?』

上記で例示されているCSツールは、いずれもマーケットシェアが高く有用なものばかりですが、中には日本国内での知名度が低かったり、自社の予算と価格がマッチしないものもあるかもしれません。
上記の類似ツールを探したい場合には、ウェブサイト『G2: Business Software and Services Reviews』が便利です。同サイトは(主に)SaaS専用のレビュー・評価サイトで、米国ではすでにSaaSを購入する場合はこのサイトのレビューとユーザー評価を参考にすることがスタンダードになっています。
ご存知の方も多いかも知れませんが、このサイトの日本版に位置づけられている『ITreview』が2018年頃から開始されています。この記事執筆時点でツール数 2,756、レビュー数 30,623が掲載されていますので、こちらも参考にされてください。

CSツールの選定方法

CSツールは自社のカスタマーサクセスオペレーションと自社のカスタマーサクセス成熟度にフィットするものを選ぶことが肝心ですが、選定段階でどのツールに決定すべきか意外に悩むものです。
ここでは、私の経験を踏まえて、CSツールを選択する際のポイントを紹介します。
* 尚、この考え方はCSツールに限らず、全SaaSの導入判断に転用できます。

CSツールの選定ポイント
適性価格>要件を満たしているか>オペレーション人材は確保しやすいか>今後の伸び代
図表2

図表2は私が考えるCSツールを選定する際の重視すべきポイントをまとめたものです。左に行くほど重視すべき基準としています。

やはり最も重視すべきは価格でしょう。「利用するツールの費用が、自社の提供するプロダクト・サービスで得られる収益の何%を占めるか?」ということは重要な基準です。導入するCSのツールの価格体系にもよりますが、当該CSツールの利用頻度やデータ量が増えても価格が高くなりすぎないものを選択しましょう。

2番目に重要なことは、「そのCSツールが利用要件を満たしているか?」でしょう。特に重要なのはSaaS間の連携機能の充実度です。先にお伝えしたとおり、CS Tech基盤を整備の最大のハードルはデータのギャザリング(集約)です。この負担を少しでも軽くするためにもこの点を見逃すことはできません。自身が導入しようとしている他のCSのツールとのデータ連携がスムーズに行えるかどうかをチェックしましょう。

3番目はオペレーション人材の確保のしやすさです。CSツールはそれ自体を使いこなすために学習を強いられることも珍しくありません。最近のSaaSはできることの幅が広がっている代わりにどんどん複雑度が増しています。「ツールを導入したものの、担当が退職してしまい、その後まったく使わなくなってしまった」というのはよく聞く話です。そのような状態に陥っても比較的容易に代替人材を確保できるよう、マーケットシェアが広いCSツールを選ぶべきでしょう。

最後のポイントは『提供元の将来性』です。SaaSはその機能が時間とともに進化することが前提となっており、サービス提供元の成長速度によっては、1年程度で大幅に使いやすくなっていたり、短期間でマーケットシェアが高まることも珍しくありません。選定時点の機能やマーケットシェアに目を奪われることなく、将来を見据えたツール選定を行いましょう。

CS Tech基盤整備のための「はじめの一歩」

ここまでの記事を読まれた方は、「こんなにも多くのツールを導入・整備するなんてとてもムリだ」と思われた方もいるかもしれません。しかし、私の所属するSansanも最初から前述したようなCS Tech基盤が整っていたわけではなく、2~3年の時間をかけ、徐々に必要なツールとそれを扱える人材を配置した結果、今の環境が整備されました。
「CS Tech基盤整備の第一歩として、まず何をすべきか?」これは私がもっとも受ける質問の一つですが、ここではその回答について考えてみたいと思います。

私がカスタマーサクセスに従事してから約3年になりますが、私がカスタマーサクセス部に配属されて最初に行ったのは、カスタマーサクセスマネージャー(CSM)が利用する顧客向け資料の整備でした。
一般的にカスタマーサクセス組織の立ち上げ期では、その組織に従事する人間は1~3名で、かつ全員が顧客フォローに従事していますが、私は全人員をCSMのロールに割り当てることにあまり賛成できません。なぜなら顧客のフォローには、

  • 導入推進体制やそれぞれのロールを説明するためのキックオフミーティング資料
  • 顧客とともに導入の進捗状況を確認するためのジャーニーマップ
  • プロダクト・サービスの操作方法をまとめた導入ガイド

など、少し考えただけでも多くのコンテンツ、支援資料が必要です。これらのマテリアルを顧客のフォローを行いつつ整備していくことはどだい無理な話です。仮に、ある程度のクオリティでできたとしても、各CSMが似て非なる資料を作ってしまい、多くのムダが発生することは想像に難くありません。
* Sansanでも実際に同じようなことが発生していました

このような状況を防ぐために私がおすすめしているのは、CSMとは別に、顧客フォローのための支援コンテンツを作る担当をアサインすることです。もちろん組織の立ち上げ期は人員も少なく、そのような余裕がないことは十分に承知しているので、少なくともそのような役割を明確に設置しておいて、CSMと兼務させておくのが無難だと思います。

カスタマーサクセス組織が立ち上がったばかりの頃は、顧客数も少なくノウハウも乏しいので、全顧客に『ハイタッチ』でフォローすることになります。ハイタッチ手法はともすればCSMのホスピタリティのみで支援が成り立つと考えている方もいるかもしれませんが、それは一元的な見方です。
初期段階であっても、顧客向けの導入推進マテリアルをしっかりと整備していくことは、その後の組織成長を考えた場合、非常に重要なポイントとなってきます。早い段階で、それらの装備を磨くためのPDCA体制の構築を意識しておくことをお勧めします。

CS Tech基盤整備のための「次の一手」

自組織に支援コンテンツを作る専任担当を配置し、徐々にそれらが整備されてきたとします。では(CS Tech基盤の整備として)その後にやるべきことはなんでしょう?
答えは、そのコンテンツを顧客に届けるための仕組みの整備です。もしかしたら、CS Tech基盤としてはここからが本当の第一歩なのかもしれません。

上述したとおり、まだ顧客が少ない状況下ではすべての顧客をCSMが直接フォローする『ハイタッチ』を採用するのが通例です。しかし、CSM全員が適切なタイミングで適切な情報をすべての顧客に提供することは意外と徹底できないものです。
このような問題が生じてきた段階で、顧客フォローのための情報デリバリー基盤を整えることが重要になってきます。具体的には、顧客へのメール配信サービスや情報提供用のウェブサイトなどを用意することになります。

通常、顧客フォローの戦略は顧客の増加に合わせて、
ハイタッチ → ロータッチ → テックタッチの順に、そのタッチ手法を整えていくことになりますが、上述した情報デリバリー基盤を持つことは、テックタッチに移行して行くときの決め手となります。

テックタッチ戦略は、多くの顧客をコンテンツとそれを届けるデリバリーシステムによりフォローする、『セルフスタディ支援』のスタイルです。あなたの会社が提供するプロダクト・サービスが優れているほど、カスタマーサクセスが支援しなければならない顧客は増えていき、そう遠くないうちにすべての顧客に直接触ることが不可能となります。

  1. 支援コンテンツを作る専任担当の配置 → 支援コンテンツの充実
  2. 情報デリバリー基盤の整備 → セルフスタディ支援への移行

これまでに私が説明した上記の手順は、カスタマーサクセス活動の効率化のためのものでしたが、それは結果として、ハイタッチのみで行っていたカスタマーサクセス活動を、テックタッチに拡張させることに繋がります。
上記の2つが充実してくれば、あとは自社の提供するプロダクト・サービスの性質に合わせ、顧客を支援するCSツールを導入し、それらのツールの利用ログを集約する基盤を随時整えていくことになります。ここまで到達すれば、それ以後どのようにCS Tech基盤を整えていくかは自ずとわかるものです。

おわりに

本記事では「カスタマーサクセスにおけるテクノロジー活用」をテーマに、CS Tech基盤で重要となるポイントや構築のためのアウトライン、CSツールの選定方法などを紹介しました。

 本文中にも書きましたが、自社のカスタマーサクセス活動を充足させるためのCS Tech基盤の整備は一朝一夕でできるものではなく、多くの試行錯誤を伴います。
私の経験上、成熟したカスタマーサクセス組織は優れたCS Tech 基盤を持っており、もしかしたら、CS Tech基盤の整備度はそのカスタマーサクセス組織の成熟度そのものなのかも知れません。

CS Tech基盤はそれほどまでに重要な要素であり、この記事を読まれるカスタマーサクセスの方が自社のCS Tech基盤を充実させることで、その事業を牽引することも大いに有り得ます。私としては、この記事がそのような方の一助になることを願って止みません。

山田 ひさのり氏

Sansan株式会社 カスタマーサクセス部 シニアカスタマーマーケティングマネージャー

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